09.メッセージ




ばきりと叩き折ってやった。
破片が落ちる床い投げ落とす。
海堂はそれをぼんやりと他人事みたいにみつめている。
どうしたいかなんて、オレにもわからない。


立ち上がってごみを拾い上げる。
もう何の役割も果たせそうにないそれを見て海堂がため息をはいた。

なんだよ、それ。
云いたいことがあるなら云えばいい。
だいたいお前はいつもそうだ。

桃城は思う。

何も云わないで時間が過ぎるのをいつも待っているだけ。
黙っていればいつかは終わるなんて思っているんだろう。
自分の考えとか想いさえ云わない。全部他人まかせで自分からは何も他人にしようとはしない。
ひどく受動的だ。

前はそんなんじゃなかったのに。



桃城はいらいらとしたように海堂が拾おうとした破片を蹴飛ばした。
その行方を黙って見届けた後桃城の方をちらりと見上げる。

怒りとか呆れとか。

そんなんじゃない。
何の感情もこもっちゃいない。

その目が向けられるのに耐えられなくなったのは最近のことだ。
我慢しきれなくなったんじゃなくて、ただそれまで気づかなかっただけ。

全てが独り芝居だった。




「・・・・なんかいったらどうなんだよ」
「・・・・・・・」
「なんかいえよ!」


面倒臭そうに顔を上げた。
何かを云いかけるようにかすかに唇を動かして、いつもみたいに止めた。


なんだ。

いったいなんなんだ。


云えばいいだろう。
何も桃城に伝えることなんか無い。
そういう意味なんだろうか。


そんなはずはないと思うのは自分だけなんだろうか。
自分は海堂に伝えたいことが云いたいことが想いのたけが山ほど在って
会うたびくちを開いていたのにそれの全てが無駄で意味のないことだったのか。


桃城はくちびるを噛む。

拳をにぎりしめる。


そんなのはいやだ。
いやだよ、海堂。



こんなにお前のことが好きだったのに。



「・・・・・・・・・っ」



ちからを入れた足下でじゃり、と音がなった。
新しいシューズ。
海堂と初めて二人で出かけたときに買ったんだった。

海堂は自主トレに忙しくてオレはオレで別のやつとの約束があって
それでも無理矢理都合をつけて遊んだ。

遊んだ、なんて云えるようなものでもなかったけど。

これどうだよ、って振り返った桃城にまあいいんじゃねーの、とか
適当に返した海堂の言葉がもの凄く何気無い会話で
本当は飛び上がるほど嬉しかったなんてこと、海堂。

お前は知らないんだろう。

もったいなくてなかなかそのシューズが履けなかったことも。

もうあれっきりで二人で出かけることなんてなかったけど。

こんなにも鮮明に覚えてる。




対極過ぎて見えないものがある。
触れないものがある。
海堂はまさにそれだった。

それなのに焦がれてしまった。

ほしいと思ってしまった。

最初から間違っていたんだろうか。
海堂はそれに気づいていたんだろうか。





もう何も聞けないけど。




ポケットを探って携帯を取り出した。
海堂のアドレス海堂の着信海堂の声海堂の言葉どれもこれも
見直したくなんか無くて海堂のにしたのと同じように叩き折った。

消すことさえ出来なかった。




これでもう本当に終わりなんだ。



「・・・・・・・・」


海堂がゆっくり立ち上がる。ポケットにてを突っ込んだままゆっくりゆっくり
桃城に背を向けて歩き出す。

桃城はもう呼び止めたりはしなかった。ただ、ほおり出された残骸だけをみていた。



好きだったんだ、お前のことが。



もう二度と云えないけど。





05.10.03 up
04.08.17 完成

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