12.昼休み






ゆらゆら視界が青くゆれる。静かな耳鳴りが世界をつつむ。
光が線になって差し込む。底に編み目を作って流れる。

口から漏れた泡が、空高く昇って行く。












「ぶはっ」



勢いよく顔をつきだした桃城に海堂は視線を滑らせる。
時計と交互に見て

「一分二秒」

とだけ告げると眠たそうにあくびをする。よくもまあこんな暑い中眠くなれるよなと思う。
水をかきわけてプールサイドへと歩く。

ばしゃばしゃと水をはねさせて海堂へと近づく。
最後の一歩は水にもぐってかせぐ。



海堂がこちらを見下ろしている。いつものしかめっ面だ。
何にも変わりはない。
桃城は楽しそうに笑う。

「お前も入れよう」
「後で」
「後っていつだよ」
「ウッセエな」
「怒りっぽいなあ、カルシウムとってる?」

海堂が顔をしかめた。

「死ねっ」


青い空を背景にして立ち上がった。はるか遠くに入道雲が見える。
ジワジワとセミが鳴く。
海堂が少し日に焼けたからだをさらす。
ランニングのもの凄いコントラストに桃城は小さく吹き出した。
手早く制服を脱ぐ。脱ぎ捨てたシャツは太陽の光を反射してまぶしかった。
全てをビニール袋につっこむと、桃城の隣にダイブをする。

水柱が光りを反射する。ばたばたと音を立ててプールに吸収される。
きれいだと思った。
大げさにまばたきをした。桃城は何も考えないで笑う。

「気色悪いんだよ、キサマ」

海堂が人差し指で水をはじく。ノーダメージ。

「やりやがったな」
「やるっつうの」


一瞬マジな顔をして構えをとる。
海堂が中指を突き立てて思い切り水をすくった。
逃げる桃城に大量の水を浴びせる。
海堂はその背中を追った。

甲高い女みたいな叫び声はカンに障るけど海堂は少し笑う。
死ね、ともう一度怒鳴って自分より筋肉のついた背中を本気でどついた。











セミが木から落ちるのを見た。
頭だけプールサイドにのせてからだの力をぬいている。
海堂は腕をくんだそこに頭をあずけていた。

遠くでチャイムが鳴った気がする。少し眠くなって太陽をまぶたで感じた。
大して気にしてない様子で桃城がつぶやく。
口元には笑みさえ浮かんでる。

「部長にバレたらどうなるかな」

つまらなさそうに海堂が云う。
桃城の方も見もしないで空を見上げる。

「プール一〇〇周うー?」
「クロールで?」
「いや、バタフライで」

海堂の横目と桃城の目線がかち合う。

雲がゆっくり空の端をなでてゆく。青い縁をなぞる。
瞬間、爆発的な笑いがプールサイドと空に響いた。


水面をばしゃばしゃとたたいてヒィヒィ笑う。
腹が痛え、と腹筋を抱えて海堂が桃城の肩に額を押しつける。
涙を流してゲラゲラと笑い飛ばす。
少しむせた桃城に海堂は増々勢いよく笑う。








「コラッ、お前等。そこで何してる」

ピタリと笑いがやむ。
お互いの顔を見合わせる。


「負けた方がアイスオゴリ」
「のった!」



一斉にプールサイドにあがりビニール袋をひっつかむ。
何が負けで何が勝ちかなんて知らない。
怒声を濡れた背中にフェンスへと足をかける。








05.09.02 up
05.08.20 完成

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